書道研究団体 書宗院/巻頭言

書宗院

ホーム創立者 桑原翠邦巻頭言>創刊号

巻頭言

〈創刊号〉

 我々は書道を愛する。一生の仕事として書道を愛する。前の時代から「書道」をうけつぎ、次の時代に書道を引きつぐために、あく迄も精進し、挺身しなければならない。
 書道が栄えるとか衰えるとか、そんなことは考える必要もない。栄える衰えるということは、時勢にもよるところが多いが、書道人自身の努力如何にかかわることが多い。書道については、奨励の部面と、研究の部面とがあって、いつの時代にも、この両部面が並び行われなければならないが、今日は、むしろ奨励の部面にこそ力をそそがるべきかと思う。ともすれば、文字とはなれがちになる日本の子どもたちを、しっかりと、文字、書道に結びつけるために。
 研究ということは、深くあると共に、広くありたいと思う。深いということは、同時に、広いということでなければならない。広さを伴わない深さは却って狭く浅いという逆現象を呈しがちである。対立、排他は、せまいものの中にこそある。一段と境地、見解を高めて見れば、何でもなく解決出来ることが多い。我が仏のみを尊しとして他をかえりみないのは、決してその仏を尊くする所以ではなく、寧ろこれをいやしめる結果にさえなる。我々はこの愚を学ぶまい。
 本院の成立ちは、世間一般の場合とそのおもむきを異にしているところが面白い。はじめ、ある人たちによって書初手本が企画せられ、それが書初展覧会に進展し、その成功が、恒久の組織を思い立たせた。仕事がさきで、組織があとになったのである。
 私はまずしい材を以て、この組織の会長に推されたのであるが、そこに、すでに、どうすることも出来ない、時代の大きなカを感じる。今の時代を、次の時代にまでおしうごかして行こうとする偉大な底流、そしてその胎動。


 我々は今こそ、明日の書道のために挺身してはたらこう。
 書道の奨励-これが当面の第一指標である。既成の流派に拘泥することをやめよう。
 地方色、個人性を尊重して、あらゆる書風を広く包容して行こう。
 着実、中正な書道のあり方は、自らその中にうちたてられて行くことと思う。
 役員の方々の充分の活躍と、会員の皆さんのかわらざる支援をお願いしたい。
-北海道の釧路にて-
(昭和二五年八月号)

書をはじめよう